【法務のペインと法務受託】法務のリソースをどう確保するか

コンプライアンス

ほとんどすべての事業体にとって、法務機能はコストセンターであり、そのためのリソースをどのように調達するかについては、多くの企業が頭を悩ませている問題でもあります。

法務が直接的に売上に寄与する事業としては法律事務所がありますが、法律事務所であっても、いわゆる「自社の法務」がコストセンターであることに変わりはありません(依頼者に提供する法務サービスは売上を生みますが、これは単に「商材」が「法務」であるに過ぎません。)。

そこで、本記事では、いわゆる「自社の法務」のためのリソース確保について考えてみたいと思います。

法務のリソース確保にあるペイン

筆者は、前職時代、国内大手企業(金融分野)に駐在していた経験や、現在、複数のIT企業に法務コンサルティングサービスを提供している経験から、法務のリソース確保にはいくつかのペインがあると考えています。

そのペインは、大別すると以下のとおりです。

  1. 多くの企業にとって、法務の需要はボラタイルであること
  2. 人材単価が比較的高額であること
  3. いわゆる「外部弁護士」の文化と企業文化のミスマッチ

以下では、上記について、筆者が日頃考えるところを説明していくとともに、解決法を考えてみたいと思います。

需要がボラタイルであること

法務はコストセンターであるため、リソースがあればあっただけ、売上に貢献したり、サービスの開発が早く進んだりという性質のものではありません。そのため、法務のリソースは、理想的には、「必要なときに、必要な分だけ」欲しいものです。

しかしながら、法務の需要は、突発的に発生することも多く、また、場面に応じて、必要なリソース量が大きく変わってくるため、ボラタイルであるという難しさがあるように思います。

例えば、他にコストセンターと言われている部門としては、典型的には経理部門や総務部門が考えられます。これらと法務とを比較すると、経理や総務の仕事があまり発生しない月というのは考えにくいと思いますので、経理や総務のリソースが必要とならない時期というのは想定しにくいと思います。また、決算期や株主総会など、経理や総務のリソースが大きく必要となる時期というのは、基本的に毎年定期的にやってくるため、調達したリソースが無駄になるということは考えにくいです。

他方、法務の場合には、ある時期にはあまり必要ではないが、また別の時期には大きなリソースが必要となるうえ、その時期が読みにくいということが発生します。業務別に見ていくと、例えば以下のようなものです。

契約審査

法務のリソースが必要となる場面として、契約審査の場面が挙げられます。特に、大きな取引があったり、新規の取引先が急激に増えたりする場合など、事業の拡大期には、法務の需要も増加する傾向があるように思います。

もっとも、いつ・どの程度新規の契約先が増えるかは、予め読み切ることが難しい面もあります。そのうえ、契約審査に必要なリソースは、契約の本数だけでは決まりません。

例えば、自社のバーゲニングパワーが強く、自社雛形を取引相手が丸吞みしてくれるような場合には、契約本数が増えても、法務の工数はそこまでかからないこともあります。

反対に、契約条件を細かく詰めていく必要がある取引であったり、海外の取引先であって契約書の言語が英語になる場面などでは、法務の工数が大きくなることがあります(特に、海外の取引先の場合、言語が異なるというだけではなく、商慣習の違い等が認識の齟齬を生まないために、国内取引よりも詳細な契約文言を置くことがあるため、工数が大きくなりがちです。)。

規制対応

規制対応の場面においても、法務のリソースが必要となります。具体的には、新規事業や新サービスの企画段階や、ローンチ前などに、その事業やサービスが規制に抵触しないかを確認するために、法務のリソースを利用することが考えられます。

もっとも、毎年コンスタントに新規事業や新サービスを立ち上げている企業ばかりではないため、規制対応に係る法務の需要は年によって変動があると思います。

また、この他に規制対応が必要となる場面としては、法改正の場面が考えられます。今年(2022年)施行の法改正についても、個人情報保護法や特定商取引法など、多くの事業者が対応を迫られた改正があり、法務のリソースが必要になったと考えられます。

もっとも、法改正についても、いつ・どのような内容で行われるかは、基本的には不明ですので、法務の需要は流動的ということになります(なお、法改正については、公布から施行まで一定の期間が開くことが通常ですが、公布後に、関連する省令やパブリックコメント等が整備されていく中で、ようやく具体的な対応が定まることもあるため、施行直前の対応が必要になることもあり得ます。)。

紛争

この他に、法務の需要が高まる典型的な場面としては、裁判や裁判外での交渉等の紛争の場面が挙げられます。

しかし、紛争がいつ発生するかは、基本的には相手方に依存するため、事前に法務の需要を予測することは困難と考えられます。

人材単価が比較的高額であること

上記のとおり、突発的に法務のリソースが必要となったときのために、法務人材を社内に抱えておくというのは、王道の選択肢の一つではあります。

もっとも、法務人材、特に弁護士資格を保有しているような人材は、比較的高価です。法律事務所において、企業法務の仕事を取り扱っていて、英語もある程度でき、更には規制対応の土地勘も多少あるといった弁護士であれば、年間1000万円超の手取り収入がある者も少なくありません。そうすると、会社によっては、いつ・どのくらい必要になるかわからないのに、この水準で人材を確保しておくということが難しい面もあります。

他に、比較的高価な人材としては、例えば、エンジニアが考えられます。もっとも、エンジニアであれば、優秀な人材を確保しておけば、自社サービスはより魅力的になり、新サービスの公開も早まり、ひいては売上に貢献するため、高い報酬に見合った価値があることが多いと思います。

しかし、法務の場合には、そういった見えやすいメリットが限定的という面があります。優秀な法務人材によってリスクが未然に防げたという事例はもちろんありますが、何の手当もしなかった場合もリスクは顕在化しなかったかもしれない(法務リスクは杞憂だったかもしれないが、仮定の話なので実際にどうなったかはわからない)という事例も想定可能なためです。

いわゆる「外部弁護士」の文化と企業文化のミスマッチ

上記の課題を解決する手段としては、法律事務所に依頼し、いわゆる「外部弁護士」を活用するというのが一つの手段です。「顧問弁護士」と呼ばれるサービスの多くも、これに対応していると思います。

但し、社内リソースの補完という目的で外部弁護士を活用する場合には、社内の文化とのミスマッチが生じないよう、起用する弁護士の選定に注意を払うことが良いです。

ここは弁護士によって個人差の大きい部分でもあり、相性の良い弁護士と出会えるかという運の要素を含んでしまう部分でもあるように思います。ここに、3つ目のペインがあると思います。

考慮すべきポイント

運要素を減らすために、一例として、考慮すべきポイントを挙げると、「断言できないことにどう対処するか」「社内事情を汲み取ることに積極的であるか」といったポイントがあると思います。

弁護士としては、当然、間違ったことは言わないようにしなければなりませんが、実際には、一概にどちらかが間違いで、どちらかが正しいとは言えない場面もあります。

例えば、事業のスキームに、Aという選択肢とBという選択肢とがある場合、Aという選択肢は法的に取り得ない(特に、解釈上違法となるのみならず、裁判例や規制当局の執行事例に照らしてもリスクが高い)が、Bは取れるというときには、Bを取るべきと断言できます。

しかしながら、法的にはAもBもどちらもあり得るといった場合には、「Aが良い(又はBが良い)」とは断言できません(実際には、更にグラデーションのある判断が必要となる場面や、マイナーチェンジ版のA’やB’を考えるべきケースもあります。)。このような場面で、どのような対応を取る弁護士であるかは、考慮すべきポイントだと思います。

弁護士毎にスタイルがどう違うか

このような断言できないことに対して、「AもBもどちらもあり得ます」「いずれとするかは貴社にてご判断ください」と回答するのも一つのやり方ではあります。このように、聞かれたことにだけは答える、経営マターには踏み込まないというスタイルの弁護士が合う会社もあるように思います。

他方で、より積極的に関与していくタイプの弁護士もあり得ます。外部から見れば「貴社」すなわち会社の判断であっても、実際には、社内の生身の人間の誰かが意思決定をしているものです。

社内事情を積極的に汲み取り、断言できない点についても、例えば「法的な整理は~~のとおりです。これを踏まえて考えると、これとこれを重視するならAの方が良いと考えます。ただ、Bに比べて~の点が劣るので、●●部に~のようにご確認いただくことが良いと思います」(文面は一例)のように、前に進めるスタイルの弁護士が合う会社もあるように思っています。

自社が弁護士に求める役割や、自社のキャラクターも加味して、より合う弁護士を起用することが必要になってきます。

法務受託や法務アウトソースサービスの利用

近時は、法務受託や法務アウトソース(アウトソーシング)といった名称で、法律事務所がサービスを提供している例もあります。

筆者は、他の法律事務所のこれらのサービスをよく知るわけではないものの、従来の顧問弁護士に比べて、社内リソースの補完という目的によりフォーカスして、パッケージを構築している点に特色があるものと想像しています。また、事務所によって、会社への出社をどの程度想定しているか等や、料金体系に若干の違いがあるようです。

伝統的な法律事務所の「顧問弁護士」サービスも、テーラーメイド可能であることが多く、法務受託や法務アウトソース的な利用方法をすることも不可能ではないと思いますが、あらかじめパッケージになっているサービスを導入する方が、コミュニケーションがしやすいというメリットがありそうです。

自社が弁護士に求める役割や、自社のキャラクターに合う弁護士がいれば、このようなサービスを利用することは有力な選択肢だと思います。

最後に

このように、法務のリソースをどのように確保するかを考えていきました。外部弁護士の利用は、「どのように確保するか」という上記の問題を「誰に頼むか」という問題に集約できるため、有効な選択肢だと思います。

当事務所でも、法務のリソース確保にお使いいただけるプラン「法務コンサルタント提供サービス」をご用意しております。

当事務所のサービスでは、筆者(弁護士登録以来、企業法務案件・契約書審査を主に取扱っています。また、国内大手企業への駐在経験もあります)が、社内のSlack等のメッセンジャーツールや、メールループに常駐します。そこで、日常的な法務業務を担当しつつ、社内法務の体制を整えていくことが可能です。また、事業部からのご質問等にも随時対応しております。

当事務所では、こちらのサービスを複数のITベンチャー企業(エグジット済みの企業を含みます)にご愛顧いただいております。ご興味のある方は、下記又は本サイトトップメニューの「お問い合わせ」からご連絡ください。

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